障害福祉サービス事業所に所属していて、「就労移行支援」という言葉をよく聞くと思います。「この利用者さんは就労移行だから3ヵ月に1回ケアプランを書いてね」とか「うちは就労移行支援事業所です」など、よく耳にはするものの、特に新入社員の頃は説明を受けるがいまいち意味がわからない。やってることB型とどう違うの?ネットを調べたけど、うちがやっていることと全然違うなど、説明と現実の乖離に疑問を持ちながらも、ぶっちゃけ理解しなくても業務が成り立つので、放念する日々をお過ごしかと思います。
そんな皆様に今回は、現役サービス管理責任者が実態に即した説明を行います。
結論、就労移行支援とは、一般就労を目指した2年間限定のサービスです。しかし、中身の訓練内容や支援内容などは対象や事業所によって大きく違います。
では、早速説明していきます。
就労移行支援とは?
就労移行支援とは、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスの中の一つです。
障がいある方が就労に向けた訓練を行い、就労スキルや知識を習得し、職場体験、就職活動、職場定着まで支援を行います
実際どんなことをするの?
実際に行うことは、大きく分けて4つ「就職に向けたトレーニング」、「職場見学・実習等」、「就職活動サポート」、「職場定着支援」。
その中でも「就職に向けたトレーニング」の部分が対象や事業所によって大きく変わってきます。
就職に向けたトレーニング
就労スキルや知識、職場でのマナーを習得する過程です。この過程は障害の種別や年齢、事業所によって大きく変わります。一つ一つの事業所で対象や地域事情などの要件が加わり多種多様になってしまうので、ざっくりとした傾向だけ上げます
主に知的発達障がい等の方を対象にした事業所
実際の体を使った作業がメインになっていることが多いです。
主に調理や清掃、接客などの作業の中からその人の習熟度に合わせて作業を切り出し、実際の作業の中で就労スキルを高めていきます。働いて人の役に立つとお金がもらえるという体験、モチベーション向上の観点から、「工賃」という形で賃金が出るところもあります(就労移行支援は就職に向けた訓練という位置づけなので、制度上賃金を出さなくても問題ない)
作業をメインにしながら、学びの場も持ちます。学びの場では、身だしなみや犯罪予防学習、言葉遣い、性に関する知識など基礎的なことを学びます。SST(日常生活での場面を想定してロープレを行うトレーニング)を導入する際は、複雑なコミュニケーションではなく、「あいさつ」や「質問」、「確認」、「休む時の連絡」、「話に割って入るとき」など、よりシンプルな内容を扱う傾向にあります。障害者職業センターが推進している「JST」のような内容が該当します。
主に精神障がい、身体障がい、知的障がいのない発達障がい等の方を対象にした事業所
あいさつや身だしなみ、ビジネスマナー、基礎的なパソコン操作などの学びの場が中心になっていることが多いです。SSTもより高度で柔軟性のあるコミュニケーションの場面を設定する傾向にあります。体を使った作業を設定している事業所もありますが、実際の作業より、働くバランスやストレスマネジメントに重きを置く傾向にあります。認知行動療法などを取り入れている事業所もあります。
賃金は出ない傾向にあります。
多機能型事業所の中の就労移行
一つの事業所の中で就労移行のほかに、自立訓練や就労継続B型などを運営している事業所もあります。自立訓練はまだ分かりやすいと思いますが、混乱するのは就労継続B型が入っている事業所だと感じます。
「誰が就労移行?誰がB型?」特にやってることの違いがないため見失ってしまいます。
あなたが感じた通り、多機能型(特にB型を含む場合)では、実践に即した作業ができる反面、同じ作業を同じようにやっているだけという傾向にあります。
ただし、そこに勉強会や事業所内での作業変更、一般企業での実習などをカリキュラム的に組み込めば、ベテランの利用者さんが維持してくれている実践的な作業場での体験ができる上に、ステップアップもより実感しやすいサービスに変化します。そして賃金も出る傾向にあります。
就労移行とB型の違いについては後述します。
職場見学・実習等
実際の職場に見学や実習を通して、より一般就労のイメージや業種、企業による違いなどを実感してもらいます。実習には体験が目的のものと、雇用を目指したものがあります。
しかし、雇用を目指しても決まるとは限らないし、体験のつもりだったが本人希望により雇用のアプローチを行うこともあるため、明確な線引きはありません。
就職活動サポート
雇用へのアプローチは大きく分けて2種類。事業所によって、実習を通して雇用に繋げることを主としている場合や、実習は体験程度にして、面接や履歴書作成で就職を目指す場合があります。企業によって、実習の可否や採用工程が異なっているため、ケースバイケースにはなります。
個人的には、できるならば実習を行った方が良いと思います。本人特性や配慮事項の把握、お互いの納得感など働く準備性が面接と格段に変わり、その後の定着もしやすいためです。
職場定着支援
雇用後半年間、職場に職場の定着を目指しサポートを行います。定期的に本人面談や企業訪問等を行い、状況の把握や課題・困りごとに対して、調整やサポートを行います。
利用期間は2年
就労移行支援の利用期間は2年と聞いて、「うちの利用者さんは3年以上いるんだけど…」と頭に浮かんだことでしょう。
就労移行支援を利用できるのは、原則2年間。2年以内に就職が決まらなければ、その後は他のサービスを利用するということになります。
特例で1年延長できることがある
所属している自治体によりますが、事情を説明すれば特例で1年間延長し、合計3年間利用できることがあります。諸要件は割愛します
多機能型の場合、他サービス(特にB型)に変更している
多機能型の場合は、2年経過後は事業所内で行っている他サービスに変更していることがあります。特に就労継続B型にサービス変更している場合が多いです。
「この利用者さん就労移行のはずだけど、長年いるよね。」というのは、このパターンかもしれません。
どんな人が利用するの?
就労移行支援の利用対象者は以下の通りとなっています。
・一般就労したいと考えている方
・65歳未満の方
・精神障がい、知的障がい、発達障がい、身体障がいのある方
・障害者総合支援法の対象疾病となっている難病等のある方
「この利用者さんは手帳持ってないけど大丈夫?」という疑問もあるかと思いますが、障がい者手帳を持っていない方でも、医師の診断や自治体の判断により利用できることがあります。
主に初めて就労支援サービスを利用する人
就労移行は仕組み上、初めて就労支援サービスを利用する方が一度利用することになっています。
したがって、高校を卒業したばかりの方や離職した方などが利用する傾向にあります。
就労移行とB型の違い
特に多機能型ではやっていることも変わらず違いが分かりにくいと思います。
サービスのイメージ
就労移行支援:2年間で一般就労を目指すトレーニング
就労継続支援B型:事業所でサポートを受けながら働く
工賃
就労移行支援:事業所による(出てもB型と比較して低水準)
就労継続支援B型:原則出る(雇用契約ではないので、一般と比べて低水準)
学習の機会や実習等
就労移行支援:カリキュラムとして組み込まれている
就労継続支援B型:事業所による
近年はB型からも就職者が増えている
近年、B型から就職者が出た時の加算が新設されたため、B型から就職する人も増えてきており、ますます就労移行との違いがなくなってきています。
個別支援計画は3ヵ月に一回
個別新計画は最低3ヵ月に1回更新することになっています。
B型は6ヵ月に一回更新のため、多機能型において人によって個別支援計画の更新頻度が違うのはそのためです。
利用までの流れ
就労移行支援に限らず、福祉サービスを利用する流れは、地方自治体が相談支援事業所を選定し、選定された相談支援事業所を経て事業所利用を行うことになります。特別支援学校を卒業された方などは、最初から相談支援事業所が決まっている場合もあります。
利用料金はほとんどの人が負担なし
利用料金は所得によって、一部負担することがありますが、ほとんどのケースで利用する本人の所得が判断材料となるため、ほとんどの人が負担なく利用できます。私が経験した中では、一人だけ一部負担が発生したことがありましたが、自治体に問い合わせたら手違いとのことで、負担なしになりました。ただし、給食費に関しては、一部負担になっていることが多いです。
就労移行支援事業所で活躍するスタッフ
就労移行支援事業所で活躍するスタッフを紹介します。
サービス管理責任者
就労支援員
生活支援員
職業指導員
指導員
運転手
結論、各ポジションの役割は概ね決まっていますが、活動内容や事業所の事情によって大きく変わるため、事業所によることが多いです。
サービス管理責任者
通称「サビ管」。事業所のリーダーであり、組織的には中間管理職であることが多い。仕事の自由度が高く、立ち回りも事業所によってそれぞれ。反面、障がい分野と活動の分野の両方をマネジメントする必要があるため、何でも屋になってしまう傾向があります。
マネジメントを行うためには、当然のことながら、その事業所の作業や、就労支援、障がい分野について熟知している必要があります。
就労支援員
前述した、「職場見学・実習」~「職場定着支援」のほとんどを事業所内外と連携しながら、マネジメントから準備・実働を行う職業です。
就業・生活支援センターと連携しながら実習を組み、日時や作業内容の調整、職場環境の把握・調整、また企業に本人特性を理解してもらう工程、実習中の付き添い・訪問など、様々な段階で実習に関わります。
また、体験実習等の外部での体験を経て、抽出した課題を本人・現場の職員等にフィードバックするため、事業所内の本人の活動にも関わることもあります。
私自身もこの職業の経験がありますが、本人の就職やステップアップに最前線で関われるとてもやりがいのある仕事でした。
生活支援員
主に事業所内で利用者さんのサポートを行います。利用者さんの障がい特性を踏まえながら、作業のスキルアップや整容面、体調の観察などを行います。
専属で利用者さんのサポートを行うこともあれば、作業を行いながらサポートを行うこともあります。
障がい分野外の方も活動に関わることが多いため、利用者さんと職業指導員などの仲介役のような立ち回りを行うことがあります。
職業指導員
現場で作業を行いながら、利用者さんの技術指導などを行います。その作業の経験や専門知識などを持っていることが多いです。軽作業であれば未経験の作業でも関わることがあります。
専門分野が福祉でないことが多く、利用者さんへの接し方やサポートの行い方は人による要素が大きくなります。そのため、一定のスキームや仲介などが必要になります。
運転手
車を運転し利用者さんを送り迎えします。送迎専属のときもあれば、他のポジションの方が兼業していることがあります
まとめ
就労移行支援は障がいある方の成長や就職などをサポートできるとてもやりがいのあるサービスです。
成長や就職のサポートを行うということは、その人の人生の一部に関わり、デザインする役割とも言うことができます。
サービスの概要や仕組みを知ることによって、より効果的な支援を展開していきましょう!
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